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根木珠たまねぎ日記|(旧 There's No Blog)

電子書籍を個人出版している根木珠、思考を垂れ流す。(旧Don't Believe Everything You Read)

掌編「感情に紐付けられた記憶」

ショート・ショート 創作 小説 掌編

 食堂でひとり本を読んでいると、他人の会話がきこえてくる。否応なく耳にねじ込まれるようで、私は不快になる。

 彼らの事を、心の中で蔑んでいるくせに、面と向かえば媚びるように笑う。そんな自分に気づかされるから、どうしようもなくイライラする。その場を離れる。静かな場所で、ひとりで考え事でもしているほうが好きだった。
 同じだ、と思った。
 学生時代。休み時間の教室。本を読む自分。
 塞いで、閉ざして、そうして過ごす時間。
 自分はなにも変わっていない。
 
 家ではツレが、女の子相手にボイスチャットをしている。ここのところ入れあげている女の子だ。
 話し声が聞こえていると私は本が読めない。しかたなく本をとじる。スマホをいじり、ツイッターフェイスブックなどを、見るともなしに見る。
 ツレがチャットを終えた。
 
 翌日、翌々日と、ツレは日中寝てばかりいた。いつもの鬱転だなと私は思っていた。
 そんなある日の夜、また例の女の子とツレはボイスチャットをした。
「これからそっちは忙しくなるから、なかなか連絡とれなくなるんだよね」
「ええ、そうですねー」
「さみしいっていうか、冗談めかして失恋して鬱って言ったけどそんな感じ」
「そうなんですか……」
「あなたのこと、人として好きだから。自分のほうでは、あなたの存在が大きくなっていて」
「ええ」
「でも、あなたが働くとなると、時間の流れ方が変わるでしょう」
「はい」
「あまり連絡とれなくなる」
「うーん」
「彼氏とも付き合い始めるし」
「うーん」
「おれは知り合いに死なれてきてるから不安なんだ。もう会えないんじゃないか、死んじゃうんじゃないかって」
「うーん」
 
 
「こんなに好きなんだから、好きになってくれたっていいじゃん」
 ボイスチャットが終わるとツレはそうつぶやいた。なんでこんなに腹が立つんだろうなあ。嫉妬ですか。いやあそういうんじゃなくて。
 声がタイプなんだよ、しゃべり方とか。美人だし。
 そうですか。
 
 パートナーの、依存心の強さは、それゆえ私が自宅になかなか帰れないほどである。
 パートナーが失恋して寝込む姿を、47歳のメタボのおっさんは恋した瞬間に失恋する。愛されない。惨めだ、可愛そうだと思いながら見ていた。切ないような気分で。
 人生とは、なんだろうか。というようなことを、考えた。
 
 ツレについて話そうとすれば愚痴しか出てこない。
 それなのに、なんだろう。
 
 
 私は、
 思い出した。
 
母が愛した兄
母に愛されなかった私
 さみしくて
 独りだった
  ああ、私は、 
  愛されないのだと
 
 そして
  ここへきてもなお
 
   私とは
    
     何か
人生とは
 
 なぜ 
 
 
(おわり)